美しい地球、平和な世界を未来へとつなぐ
着物をまとい世界をめぐる 伊藤研人さん

美しい地球、平和な世界を未来へとつなぐ着物をまとい世界をめぐる 伊藤研人さん

着物で世界を2周半巡り、様々な地を訪れ独自の世界観を発信する伊藤さん。環境問題に目を向け動き始めたその先には、様々な人や文化への敬意、そして自国日本への愛がありました。キーワードは「調和」と「文化」。彼が世界を回る目的と、その先にあるものとは……。

ニューヨーク・タイムズスクエア

ニューヨーク・タイムズスクエア

「着物を着て行くとね、みんなすごく喜んでくれるんです。「日本人が来た」って。マサイ族とはジャンプ力を競ったり力比べを挑まれたり、サグラダ・ファミリアでは女性に「美しい!」って群がられたり……そうそう、パリでは「メシをおごるから日本の漫画の話をしてくれよ」って、引きとめられたこともあったなぁ」

ことの発端は「宇宙飛行士になりたい」という幼稚園時代の夢だったそうです。その夢を追い続けて、大学時代には宇宙開発を専攻。しかしそこで伊藤さんは大きな矛盾にぶつかります。宇宙空間を地球のような環境に、人間に適したものにするというのが宇宙開発である一方、実際は「宇宙があって、地球があって、その環境に適した生き物が人間なのではないか」と。そこから環境破壊の進む地球を置いて、快適な生活を宇宙に求めるのではなく、地球そのものを見つめ直したい、そう思うようになったそうです。この生命溢れる素晴らしい地球を人間に適した環境のまま後世へ渡したい。その想いが「環境問題のために何ができるか」という彼の人生の目標を決めました。そこで「まずは世界を見てみよう」彼は地球を旅することを決意します。

カンボジア・アンコール遺跡群

カンボジア・アンコール遺跡群

ニュージーランドからスタートして2カ国目の旅はオーストラリア。ここで伊藤さんは後に日本というものに目を向けることになる印象深い経験をします。
旅費の残金が5万円になった時に、彼を雇ってくれたのがバナナ農場。そこで行われるのは、木を切り倒し、60~80kgのバナナの束を1日中担ぐという重労働。多くの働き手が辞めていく中でひたすら辞めない人種、それが日本人だったそうです。そして時がたち伊藤さんは収穫チームのリーダーに。その時あることに気がついたそうです。

「日本人がいると仕事が上手く回るんです。辛くても耐えてくれるし、不作の時には爆発的な仕事をしてくれる。リーダーが仕事をしやすいように、他のメンバーに不満が溜まらないように、自然と気配りもしてくれる。それって賃金とは無関係なところなんですよね。
辛い時にいつも歯をくいしばってついてきてくれたんです。そうしたらなんか感動しちゃって。涙出ちゃったんですよね。その時に自分の国籍に関係なく日本人が大好きになりました。日本人いいですよ。ホント大好きです。」

「この時自分が感じていたことを農場のオーナーも感じていたんでしょうね。だから日本人労働者には信頼があった。ただ日本人だというだけで。その信頼って、日本人の先輩たちが同じようにしっかり働いていてくれたからこそのものなんですよ。それと同じように、今国際的に日本人が礼儀正しいとか良い風に思われているのは、先人たちのおかげなんです。全然自分の功績ではない。だから日本人というものに感謝の意を感じるようにもなりました。」

日本人の美徳、それが環境問題にも大きく関係していると話す伊藤さん。
「働いていて特に感じたのは、日本人の「調和する『和』の心」。日本人は相手の気持ちを考えて行動する力に優れている。他の国では「口に出さないとわからない」みたいなことがよく言われるんですけど、日本人は相手の表情や行動から汲み取ることができる。

環境問題って考えれば考えるほど一方から解決することができないんです。例えば海を汚すとか木を切るとか、そういうことにも理由がある。木を切るなって言ったら、職を奪われ、生活を失う人もいる。木を切る人に単純に木を切るな、といっても何の解決にもならない。じゃあなぜ木を切るの?という話になると、そこには政治が絡んできたり、ありとあらゆる問題が出てくるわけです。先進国、後進国、資本主義、社会主義、貨幣の仕組み、エネルギー問題……それをまとめて考えることはできないなと思った時に、自分の中で出てきたキーワードが「調和」だったんです。」

「調和」それは一人一人が、相手を思いやり自分で責任を持って行動していくこと。自分のため、家族のため、国のため、世界のためということを念頭に置き、互いにバランスを取りながら共生していく。このような社会を実現するために、日本人の「調和する『和』の心」が果たすべき役割は大きいと伊藤さんは話す。

エジプト・ナイル川

エジプト・ナイル川

「相手の気持ちを読み取る能力に優れているというのもありますし、人と自然との調和をずっと考えてきた民族でもありますよね。経済的にもある程度豊かさがあって、歴史的に、西洋文化と東洋文化の両方を経験しているというのもあります。それこそ日本の「いいね!」じゃないですけど、日本の良さを再認識して、調和する社会の実現のために、世界中をいかにとりなしていくかということを考えられる国にできたらいいなぁ。」

次なるキーワードは「文化」
「環境問題において大切なのは「持続可能な社会」だと思うんです。破壊されずに続いていくという意味で。それを最先端の技術で研究することもできますけど、それってすでに人間が長い時間をかけて創り上げているんですよ。それが文化です。その土地でいかに生きていくかという知恵の結晶、そこに持続可能な社会のヒントが沢山つまっていると思いませんか?この数十年のグローバリゼーションで世界中の価値観を同じものにしようとした結果、一気に環境破壊が進んできたんです。だからこれからは、世界中の人が各々その地に合った生き方「文化」を大切にしなから、互いに認め合って調和していく。そんな世界を見てみたいですね。

そこで旅なんです。他国の文化を理解しなければ、自国の文化を理解することはできません。私がオーストラリアで経験したように、日本の外に出てみて、はじめて日本がわかることがあります。他国の文化を知ることは自国の文化を知ることと同じですから。だからこの先も異文化交流の意をこめて、世界を回りたいですね。」

南アフリカ共和国・ケープタウン

南アフリカ共和国・ケープタウン

日本にいた時は、着物を着たことがなかったという伊藤さん。
「オーストラリアから帰ってきた時に初めて着物を着ました。最初は着方もわからなかったくらいですけど。相手の文化を学びに行くためには、キチンと礼儀を通さなくちゃなって思ったんです。現代まで伝統を受け継いでいる文化の中には、侵略や虐殺に晒されながらも必死で守り抜かれて来たからこそ残っているものも数多くあります。

命がけで大切に伝えられたものを教えてもらう時に、自分が日本の文化を疎かにしていたら無礼だなって。後は自国の先人に対しての敬意というか。日本って黒船来航以降、どんどん西洋化していきましたよね。でもそれは本意だったのかというとそうではないと思うんです。侵略を逃れるために仕方のないことだった。日本は西洋化することで、自国の文化を守っていったんだと思います。でも今は日本人が日本人として日本の文化を正面から伝えても恥ずかしくない時代になりました。世界中着物を着て行って、日本人が対等な立場として日本文化を表現して異文化を交流できる時代が来たっていうのを見せたいなという気持ちもありましたね。そして更に、日本だからこそこれからの時代に世界中に伝えられる和を皆で伝えて行けたらと思います」

着物を着て最初に行った国はアメリカ。それは大好きなインディアンの住む地に訪れたかったから。
「日本人は知っているが着物を着ているのは初めて見た!って喜んでくれましたよ。日本の文化を大切にしながら相手の文化を学びたいっていう話も歓迎してくれました。サンダンスの儀式っていうのがすごくて。4日間自分の体に木の棒を刺して、ロープでつながって、そのまま飲まず食わずで4日間踊り続けるんです。そんな驚くような風習もありましたけど、共感できる部分もたくさんあるんですよね。根底にある自然への感謝とか、日本と通じるところがあるなと。他にも40国くらい行きましたね。マヤ族、ホピ族にもマサイ族にも会いました。

ケニア・マサイ族と

ケニア・マサイ族と

面白エピソードですか?そうですね、大聖堂とか博物館とかでなぜかタダで入れてもらえることがありました。チケットを買いに行ったらチラッと見られて、お前はいいみたいな。ルーブル博物館とか拝観料結構高いんですよ。でも普通に買おうとしたら「お金あるの?」って言われて。貧乏旅行でしたからね。行く先々で肉体労働、通訳、ツアーガイド、農作業…なんでもやってました。

今現在の彼は世界を回りながら、株式会社縁の代表取締役、兼一般社団法人One Skyの理事を務めています。
「縁の方では伝統文化を主旨にしています。職人さんの作ったものを海外に紹介する。さらに日本の伝統的なものを海外の流通にかけるというのをメインにしていこうと思っています。今やろうと思っているのは刃物やガラス細工。あと着物もそうなんですけど下駄なんかも作り始めています。他は職人さん同士をつなげたり、後継者を探す手伝いをしたり、それを実現するための準備段階です。あとは日本の文化を知るためのツアーやセミナーをやったりもしてますね。

One Skyの方では国際交流活動をしていこうと思っています。最終的なビジョンは学校みたいなものを作りたい。世界中の子どもを一か所に集めて、そこで色々なことを学ぶんです。でも価値観を確立するんじゃなくて、各々が価値観を交換しながら、これから世界のために何ができるのかとか、国と国がどうすれば仲良くできるのかを考えていきたいんです。それで子どもたちが自分たちの土地に戻った時に、同じ志をもった仲間が世界中にいるっていう状態を作るのが最終目標です。One Skyって空を見上げたら全部つながっているから垣根はないっていう意味なんです。

ナミビア・リューデリッツ

ナミビア・リューデリッツ

民族が変わることなく世界で最も国家として長い歴史を持っている分、文化に厚みがある、それが日本の良さですよね。家を建てる技術ひとつをとっても、あらゆるものに文化の神髄が込められているところにこの国の「いいね!」があると思います。
その逆をいくんですけど、日本の成り立ちはとても国際的。元々ユーラシア、朝鮮、中国南部、東南アジア……色々なところから来た人たちがたどり着いた地が日本なんです。だから日本文化って独自のものを築いてきたイメージが強いですけど、その根本は様々なものが混ざり合っているっていう、そこに面白さがあると思います。

あとは資源が多いこと。よく資源小国って言われますけど、空気、水、森、魚、動物、作物……こういうものって日本ほど豊かな国ってなかなかないんですよ。資源にも重要度があって、人の命につながっている部分を日本はすべて持っているんです。石油なんてなくても生きていけますからね。

Kento_Egypt_Sands

エジプト・白砂漠

着物を着て様々な地の文化を吸収しつつ、日本の「いいね!」を世界中に発信する伊藤さんの旅はまだまだ続きます。
「着物を着ていて困ったことですか?んー……そうだな、走れないことかな?でもその分、落ち着いていられる。一つひとつを考えながら行動できるから研ぎ澄まされる。それも着物の良さ、私はそう思います。」

1986年生まれ。室蘭工業大学卒。

2009年、環境問題に関わる活動を志し、大学卒業と共に日本を出る。ニュージーランドに一年間滞在しながら、多国籍の人々が集まる環境で農業に従事しながら英語を習得。滞在中にセーリングやダイビングを学ぶ。

2010年オーストラリアに移住。バナナ農園で収穫チームのリーダーを務めながら、国籍、人種の違いを超えた環境でリーダーシップを学ぶ。

2011年、スキューバダイビングのインストラクターとして世界中から来た生徒に教える。

2012年、和服での世界放浪の旅を始める。アメリカでいくつかの地域のインディアンと生活を共にしながら文化を学ぶ。中南米、ヨーロッパ、中東、アフリカ、アジア諸国を約3年間旅して回り、それぞれの土地の文化や環境を学ぶ。

2014年末帰国、環境問題やそれに関わるあらゆる問題に世界各国が協力して取り組む為に、文化をキーワードに日本に出来る事が数多くあると考え、伝統文化の見直しと国際交流の促進の為の活動を開始。

2015年、全国約50カ所で講演。一般社団法人ONE SKY、株式会社縁を設立し、着物の普及、伝統文化からの学び、国際交流を促進する活動を様々な切り口から本格的に開始。

一般社団法人 ONE SKY 理事長
株式会社縁 代表取締役
一般社団法人 Imagine One World 副代表
一般社団法人 男きもの普及協会 副代表

取材・文/小田実 松田然 撮影/渡辺圭亮 写真提供/伊藤研人

URL :
TRACKBACK URL :

メッセージはこちら

*
* (公開されません)
*