満天の星の下、焚き火を囲み道北のアウトドアを締めくくる。
北海道中川郡美深町仁宇布『終り火』

満天の星の下、焚き火を囲み道北のアウトドアを締めくくる。 北海道中川郡美深町仁宇布『終り火』

北海道旭川市からさらに100kmほど北上すると中川郡美深町(びふかちょう)があります。アイヌ語の「ピウカ(石の多い場所)」が町名の由来といわれていますが、実際石がゴロゴロしている印象はあまりなく、むしろ広々とした草原の中で羊が草を食むのどかな風景が広がっていました。その美深町仁宇布(にうぷ)地区で行われたアウトドアシーズン最後のキャンプイベントが『終り火』です。地元北海道はもちろん東京からの参加者も含め十数名が集いました。

広い草原の中一件だけ佇む宿泊施設「ファーム・イン・トント」の前が『終り火』の舞台。

広い草原の中一件だけ佇む宿泊施設「ファーム・イン・トント」の前が『終り火』の舞台。

草原には羊たちが放牧されている。この地は、村上春樹の「羊をめぐる冒険」の舞台ともいわれている。

草原には羊たちが放牧されている。この地は、村上春樹の「羊をめぐる冒険」の舞台ともいわれている。

まずは、『終り火』で食する料理を盛るためのカッティングボードづくりからスタート。講師はネイチャークラフト作家、ネイチャーワークス代表の長野修平さん。長野さんが用意した7種類の板(ダケカンバ、セン、ケヤマハンノキ、オニグルミ、ヤチダモ、ハリギリ、ハルニレ)から好みの板を自由に選び、電動ノコギリでカットした後ナイフや紙やすりで仕上げていきます。もう一工夫したい人は焼印を入れたり、炭火をのせてくぼみをつくったり……ぎこちないながらも参加者独自の個性的なカッティングボードが次々とできあがっていきました。

カッティングボードづくりを指導する長野さん

カッティングボードづくりを指導する長野さん

一心不乱にカッティングボード作りに没頭する参加者

一心不乱にカッティングボード作りに没頭する参加者

個性豊かなカッティングボードが完成!

個性豊かなカッティングボードが完成!

しだいに日が暮れ始め、ランプに火が灯され野外BARもオープン。地ビールや厳選されたシングルモルトのスコッチウイスキーがカウンターにずらりと並べられ、好きなお酒を片手に焚き火のまわりに集まって、いよいよ『終り火』のスタートです。

日没とともにランプに火が灯る

日没とともにランプに火が灯る

焚き火も準備万端あとは日が暮れるのを待つのみ

焚き火も準備万端あとは日が暮れるのを待つのみ

ずらりと並んだウイスキーボトル。ワインや日本酒、焼酎もちらほら。

ずらりと並んだウイスキーボトル。ワインや日本酒、焼酎もちらほら。

焚き火を囲んで羊の珍味(心臓・舌・肝臓のスモーク)、羊のサルシッチャ炭火焼、子羊のローストなどこだわりの羊料理や美深産かぼちゃのシチューに舌鼓を打ち、様々なウイスキーをいただき、氷点下の中白い息を吐きながら今年一年のアウトドアライフを語らいます。日が完全に沈むと、満天の星の下に時折流れ星が降り注ぐ『終り火』最高のステージができあがりました。

焚き火を囲み、星空の下で語り合う

焚き火を囲み、星空の下で語り合う

焚き火の周りにはカッティングボードに盛られた羊の珍味が彩りを添える

焚き火の周りにはカッティングボードに盛られた羊の珍味が彩りを添える

食べて、飲んで、語り尽くした参加者のみなさんは、氷点下の中テントで寝袋に入り一夜を明かします。ワインやウイスキーのボトルも凍る極寒の朝、待っていたのはあったかい鶏肉のお粥。鮭や梅干し、肉味噌、ラー油など手作りの各種トッピングも充実し、朝の澄んだ空気の中大満足の朝食となりました。

ボトルに描かれた氷の結晶

ボトルに描かれた氷の結晶

あったかい鶏肉のお粥と美味しそうなトッピング

あったかい鶏肉のお粥と美味しそうなトッピング

朝食を終え、すべてのプログラムが終了した時点で『終り火』を企画した美深町観光協会事務局長の小栗卓さんにお話を伺いました。

『終り火』への思いを語る小栗さん

『終り火』への思いを語る小栗さん

「この時期は特に火の暖かさとか太陽のありがたみとか、すごく伝わる時期ですよね。今回のイベント『終り火』は、初心者の方も含め誰でもOKという形で来ていただける企画ではないと思います。やっぱり慣れ親しんだ方だったり、何度も美深町に訪ねて来ている方だったり、アウトドアのプロだったり、そういう方たちが“こっそりやる”というイメージですね」

「やってみると、参加者もスタッフも一緒になって『終り火』をつくった感じがとても印象的でした。やっぱり人が少ない場所というのは、それぞれが自分の役割を自然に見つけるというか、そういうところもきっと楽しみのひとつになったのかなと思っています。多分これ以上のものは今の段階ではできないくらい最高のものができたと思います。自分で言うのもなんですが100点満点ですね!」

小栗さんのパートナーとして『終り火』を支えたリバートリップキャメル代表
辻亮多さんは、四国の徳島県出身。美深町に越してきてまだ今年で3年目。辻さんにも『終り火』への思いを語ってもらいました。

道北のポテンシャルと可能性について語る辻さん。

道北のポテンシャルと可能性について語る辻さん。

「アウトドアに携わる者にとってはシーズンが終わっていく季節。その終わっていく季節を仲間と一緒に火を囲んでのんびり過ごせたらシーズンの締めくくりとしてはすごくいいなと思いまして主催者の小栗さんに誘われ参加しました。実際すごく良かったですね!今にも降り注いできそうな星空の下で思いました……あれは星空じゃない、宇宙だ!(笑)」

「旭川以北の道北という地域は、土地自体のポテンシャルはすごくあるのですが、それがまだ世の中に伝わりきってないっていう点が課題です。そこでカヌーだったりキャンプだったりそういうプログラムでその良さは発信していきたいなと思っています。いま企んでいるのは手作りで短いスノーボード“雪板”を自分でつくって、それを担いでこの辺りの森だとかを登って滑り降りていく。まさにクラフトアンドプレイです。いま道具が進化していってどんどん厳しいこと難しいことをするのがアウトドアの主流になってきていますけど、道具を簡単にしてあげることでおだやかな土地でも日常で十分冬を楽しめるような提案をしていきたいです」

『終り火』には小栗さん、辻さん以外にも地元仁宇布の方々の協力が不可欠でした。羊の肉料理を提供してくれた東洋肉店さん、羊のチーズを提供してくれた「チーズ工房羊飼い」の田中孝幸さん、そして、『終り火』参加者のトイレや女性宿泊にご協力いただいた「ファーム・イン・トント」の柳生夫妻。『終り火』は、まさに仁宇布地区が一丸となったイベントでした。

全国でも珍しい羊のチーズを製造販売している「チーズ工房羊飼い」田中孝幸さん

全国でも珍しい羊のチーズを製造販売している「チーズ工房羊飼い」田中孝幸さん

『終り火』の様子を最初から最後まで見守ってくれた宿泊施設「ファーム・イン・トント」の柳生夫妻

『終り火』の様子を最初から最後まで見守ってくれた宿泊施設「ファーム・イン・トント」の柳生夫妻

最後に地方創生の掛け声のもと日本各地で観光誘致や移住促進に力を注ぐ中、美深町はどういうスタンスなのか、小栗さんの見解を語っていただきました。

「美深町は人口4600人。仁宇布地区は70人くらいで平均年齢は40代です。古くから仁宇布に住んでいる方はもう2軒しかないですね。あとは全部移住者です。美深の観光は、他の大きな町の観光と違って田舎の観光なので、暮らし・移住とセットなんです。来て見て楽しむだけじゃなくて、最終的には暮らしにつながっていって、移住があって、そこから家族ができてっていうところまでが一貫して美深の観光だと思っています」

「外国人観光客もいわゆるインバウンドの主流といわれる中国や台湾ではなく、何便も乗り継いで北欧やイギリス、ロシアなど比較的寒い地域の方々がいらっしゃっているのが特徴ですね。中には村上春樹の『羊をめぐる冒険』の舞台といわれているということを調べてやってくる方もいます。ですから誰も“おもてなし”をあまりもとめていません。あるがままを受け入れている感じです」

今後『終り火』に魅了され、何度も美深町仁宇布地区に足を運ぶことで移住する参加者も出てくるかもしれません。シーズン最後のイベント『終り火』は、ひょっとしたら“はじまりのための終り”なのかもしれません。

自慢のカッティングボードを持って、最後に記念の一枚

自慢のカッティングボードを持って、最後に記念の一枚

美深町観光協会 http://www.bifuka-kankou.com

株式会社東洋肉店 http://www.29notoyo.co.jp

チーズ工房羊飼い http://www.sikisai.com/hitujikai/

ファーム・イン・トント/松山牧場 http://matsuyama-farm.com/farm-inn-tonttu/

取材・文/小田実 撮影/中川紘司

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