車椅子でも農作業ができる村づくり。
『ユニバーサルビレッジ キッカケル103』

車椅子でも農作業ができる村づくり。 『ユニバーサルビレッジ キッカケル103』

2015年4月26日、晴れ渡る春の空の下、長野県東御市新張(とうみしみはり)で、「ユニバーサルビレッジ<キッ×103>(きっかける東御)」構想の第1回目となるキックオフイベント、ジャガイモ植え付けが開催されました。 「ユニバーサルビレッジ<キッ×103>」は、障がい者と健常者がともに遊休農地を耕したり、古民家再生などを行うプロジェクト。『僕らの村をつくろう!』と旗を揚げたのは、2010年のバンクーバーパラリンピックで、日本を銀メダルへと導いた元アイススレッジホッケー選手の上原大祐さん。上原さんらの声掛けで、都内などから約50名が参加しました。

帽子を交換して、笑顔でポーズ!佐野夢果ちゃん(左)と上原大祐さん

帽子を交換して、笑顔でポーズ!佐野夢果ちゃん(左)と上原大祐さん

「車椅子で生活している人にとって、実は“土”が強敵。浜辺もそうですが、畑に入って土いじりをするのは、とても難しいことなんです。そこで、障がい者も健常者も一緒に農業体験できる村づくりを思い立ち、2014年10月から、生まれ故郷である長野でこの企画をスタートさせました」(NPO法人D-SHiPS32・代表/上原大祐さん)

静岡県から参加した佐野夢果ちゃんは、上原さんが昨年参加した難病の子供達のサマーキャンプに参加した事をキッカケに上原さんと知り合いになり、今回のイベントに招待されました。車椅子のまま畑に入り、生まれて初めての畑仕事を体験。
「すごく楽しい!育つといいな〜」
と、満面の笑みで感想を語ってくれました。

種芋を植えるねねちゃんと上原さん

種芋を植えるねねちゃんと上原さん

この場で自分を発見するキッカケ。障がい者と健常者が交わるキッカケ。誰もが夢を持つキッカケ。それぞれ役割があるので「自分にはできない」と思わなくていいキッカケ。キッカケルには、そんな色々な「キッカケ」を見つけてもらいたいという思いが込められています。

缶から出てきたコンビーフに思わずにっこり!

缶から出てきたコンビーフに思わずにっこり!

「ユニバーサルビレッジ<キッ×103>」には、プロジェクト代表の山木鷹雄さんをはじめ、東御市の地元の皆さん、市役所、東御市社会福祉協議会、身体教育医学研究所の方々など、上原さんの声に応え、沢山の人たちが参画しています。

種芋を提供してくれた上原さんの叔父である、斎藤護さん(左)と山木鷹雄さん

種芋を提供してくれた上原さんの叔父である、斎藤護さん(左)と山木鷹雄さん

「障がい者と健常者のコミュニケーションは、なるべく子どもの頃からの方がいいんです。大人になっていろいろ考えるようになってからじゃ、本当の意味でお互いの状況を認め合う事は(ごめんなさい、私が心のバリアフリーという言葉が大嫌いでして)できない。ですから僕たちは、子どもたちによりたくさんのコミュニケーションの機会をつくっていきたいと考えています。東御市とコラボするこうした活動で交流を育み、しっかりと繋げていきたい。まずは、楽しみにしてくれる人たちに対して、プロジェクトをしっかりと根付かせるのが私たちの責任ですね」(プロジェクト代表/山木鷹雄さん)

畑づくりに参加してくれた岡田真平さん(左)と高岡久章さん

畑づくりに参加してくれた岡田真平さん(左)と高岡久章さん

「東御市では、『みんなの健康×スポーツ実行委員会』を設立しており、障がい者のためのイベントや講演会などを積極的に行っています。健常者も障がい者もみんなで課題をシェアして取り組もうという、キッカケルの思いと東御市の思いが重なっているので、みんなが協力的なんです」(東御市社会福祉協議会・社会福祉士/高岡久章さん)

「東御市には、地方としては珍しい障がい者のための研究施設があり、そういう意味でも東御市はこうした事業に積極的なんです。障がい者と健常者が共に何かをする土壌が揃っているということは、非常に幸運なことです」(公益財団法人身体教育医学研究所・所長/岡田真平さん)

アイススレッジホッケーを子どもたちに教える上原大祐さん

アイススレッジホッケーを子どもたちに教える上原大祐さん

上原さんのガッツと行動力には、本当に驚かされます。やりたいと思ったことには、何にでも夢を持ってチャレンジしていきます。皆さんそれぞれがやりたい!と思った事はその人が与えられた生きている中での使命だと思います。ライト兄弟が「飛行機を作りたい!」と思った事で、今世の中に飛行機があります。人のやりたいはそれぞれ違っているからこそ、それぞれのやりたいは一つの使命なのではないかと思っています。

スピード感あふれ、迫力たっぷりのアイススレッジホッケーの試合

スピード感あふれ、迫力たっぷりのアイススレッジホッケーの試合

「ユニバーサルビレッジ<キッ×103>」の他にも、自身が代表を務める、障がい者と健常者が共生する社会を「スポーツ」を通じて創りあげていくNPO法人「D-SHiPS32」では、スレッジと呼ばれる専用ソリに乗って行うアイスホッケー競技の選手育成にも取り組んでいます。アイススレッジホッケーは、まだ日本ではマイナーなスポーツですが、北米では競技人口が多く、障がいを持つ多くの子どもたちに親しまれています。
また、アイススレッジホッケーの他にもパラリンピックスポーツを広める活動をしています。「障害者スポーツ」と言うとどうしても障害者しかできないスポーツだと思っているのが日本です。全く違います!車いすバスケットボールなら、バスケットボールと車いすというアイテムが一つ増えただけのスポーツです。我々障害者に立ってスポーツしろ!と言われても無理ですが、皆さんが車いすに乗ってスポーツしてください。と言われたらどうでしょう?誰でも出来ますよね?そうした固定観念も変えていく活動をしていくのも我々「D-SHiPS32」の役目です。

畑に敷かれたゴムシートの上を車椅子で移動するねねちゃんと夢果ちゃん

畑に敷かれたゴムシートの上を車椅子で移動するねねちゃんと夢果ちゃん

「日本では子どもたちを学校に入学させ、日常生活をおくることだけで、親が力尽き、課外活動をする余裕がないんです。僕は、この環境を改善するのは、人や場との出会い、そして、やってみようとする気持ちだと思います。障がい者にはキッカケが必要なんです。僕は、そのキッカケづくりを広めていきたいんです。」(上原大祐さん)

畑づくりをキッカケに新たな出会いが生まれ、“いいね!なコト”が生まれる

畑づくりをキッカケに新たな出会いが生まれ、“いいね!なコト”が生まれる

上原さんは“自分が動けば世間は狭い”と笑って語ってくれました。活動を通じて、知らないことや知らない人たちと出会い、次から次へと繋がりができ、最初は広く感じていた世界が、実はすべて自分の行動範囲だと気付いたのだそうです。キッカケを次のキッカケに。相乗していくキッカケルは、これからどんな夢を実現していくのでしょう。

社会起業家、元パラリンピック銀メダリストアスリート。
1981年、長野県出身。生まれながらに二分脊椎という障害を持ちながら、そのバイタリティと明るさでリーダーシップを発揮してきた。19歳で出会ったアイススレッジホッケーに熱中。2006年トリノパラリンピック日本代表として選出され、日本人選手最多のゴールを決めた。10年のバンクーバーパラリンピックでは、準決勝のカナダ戦で決勝ゴールを決め、銀メダル獲得に貢献。現在はアスリートとして、会社員として、そしてNPO法人「D-SHiPS32」の代表として多方面で活躍する。


D-SHiPS32フェイスブックページ:https://www.facebook.com/dships32

文/有馬敏浩 撮影/河谷俊輔 写真提供/上原大祐、竹見修吾